ふるさとへの恩返し

 

「本多くん、いくつになった?」

「50ですけど(2008年当時)」

「そろそろ故郷に恩返しせんといけん歳じゃなあ」

「恩返し、ですか…」

この時には恩返しという言葉にピンと来ておらず、というのも恩返し=ボランティアという不埒な考えが頭をよぎっていたからなのですが。
この言葉の主はデザイナーの水戸岡鋭治さん、同郷の先輩です。九州JRの列車のデザイン、観光列車という概念を広めたのも師の業績です。

 

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私、多くのデザイナーの例に違わずメーカーからの発注を受け表面を飾るパッケージデザインを生業としていました。企画担当者からデザインコンセプトの説明を受け、ロゴマークやパッケージデザインを制作して納品。そこから先は広告代理店任せで、その後売れたのやら売れなかったのやら判りませんし、知ろうともしませんでした。こんな生活に少々退屈していたのもあったのでしょう、そこに水戸岡さんからいただいた「故郷への恩返し」という言葉がすう〜と入って来ました。それは「地域産品開発のお手伝い」という生き方の始まりでもありました。

そうやって地方に目を向けると、良いものを作っているにも関わらず、報われない人々が多いことに気がつきます。反面、大して美味しくも無いものが売れている現実も。なぜでしょう?

それは「伝え方の上手ヘタの差」に他なりません。

生産者さん達は職人気質の方が多く、美味しけりゃ売れると考え、懸命に質を追求します。自分達の努力を声高に語ることに気恥ずかしさも感じているので饒舌ではありません。一方“大して美味しくも無いもの”(失礼)を作っている人は自分の弱点を知っています。故に少しでも美味しそうに、価値あるものに見せようと努力します。パッケージに凝り、リーフレットやウェブサイトで集客&販売、実力を盛り気味にアピールします。露出が多いのでユーザーにヒットする確率も上がり売れてしまうのです。伝える努力をしているか否かの違いは大きいです。世間的には、良いものが売れるのではなくて「売れてるものが良いもの」という判断をされてしまうのです。残酷ですね。

「高いから売れないんだ」という人もいます。じゃあ安くしたらどうなるか。

大手メーカーは生産規模が大きく品揃えも豊富、仕入れのコスト削減や販売地域の拡大が容易(スケールメリットと言います)です。だから採算度外視の安売りで顧客をこちらに振り向かせて利益の取れる商品に誘導、といった戦略が取れるのです。が、地域産品の生産者が「高いから売れない」という声を信じて安売りに走れば、当面数は売れるでしょうが利益が出ない、それをリカバリーする商品も戦略も無い、と来れば末路は明らかでしょう。

そもそも地域産品は値段で勝負するものではありません。商品の質、量からして高価にならざるを得ないものです。だから高価な値段を納得させる「情報の伝え方」が大切になるのです。お客さんは高価なりの理由を納得できれば買います。問題はその伝え方の方法。全ての情報をパッケージやラベルといった小さな媒体に盛り込むのは無理が生じます。お客さんは小さな文字をじっくり読むなどしてくれません。作り手の想いの熱量と買い手の温度差が浮き彫りになる部分です。

ウェブサイトの存在が重要さを増しています。
ページ数は無限大なので思いの丈を存分に語れます。自分で更新できるシステムを組み込めば追加料金も掛かりません。興味を持ったスーパーのバイヤーは直ちにウェブ検索を掛けて来ます。そこで貴方の情報が何も出てこなかったら…商談の機会を逃すことになります。その損出は如何に。簡単な自己紹介ページだけでも構いませんので、商品と合わせて“伝えるための道具”も準備しましょう。無料のSNS、Facebookでも大丈夫です。とにかく自分の存在とメッセージを届ける努力を怠らずに。

 

[おとなの本気を見せる]

これも水戸岡さんのお話。九州JRに「特急あそぼーい!」という列車が走っています。親子の旅行者、その中でも子供に焦点を当てた観光列車なのですが、そのクオリティーがすごい。 列車の中に遊び場があったり、子供の座席が常に窓側、しかも座面を高くするなどの工夫が盛りだくさんで心遣いが感涙モノです。

 

「子供相手だからと言って“こどもだまし”は通用しない」「子供の教育で大切なことはおとなの本気を見せる事だ」

師からいただいたこの言葉に背筋が伸びたような気がしました。これを地域産品に置き換えて見ましょう。

「地域産品だからと言って手抜きは通用しない」「地域産品のデザインで大切なことはプロの本気を見せる事だ」

残念なことですが中には「地域産品なのでこんなもんでいいでしょ」とか「この位の味で勘弁して」といったエクスキューズが先立っている商品も見受けられます。インターネットが普及したこの時代、地域産品であろうが無かろうが、好むと好まざるに関わらず、一旦市場に出れば大手メーカー品と比べられます。開発の事情を知らないお客さんは「地域産品だから」という贔屓目では見てくれません。作るほうも支援するほうもプロとしての本気度が問われる仕事です。

そしてもう一つ、プロは言い訳をしません。「予算が少なかったから…」「時間が無かったから…」そんな言い訳が通るほど商売の世界は甘くないのですが意外と多い愚痴や言い訳めいた顔の商品。ここにも地域産品が軽く見られている空気を感じます。