月別アーカイブ: 2010年10月

あなたの財産

■ 経験・体験・記憶は真似できない

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人を含む生き物は経験を元に学習し、身の回りを“経験した事のある”安全なもので囲まれたいいう欲求があります。
これは命を守るため、精神を安定させたいという本能とでも言えましょうか。

前回のコラムに書いたように始終新たな刺激に晒されていると精神的に疲れますし、新規刺激(危険物)に対する反応が鈍くなってしまいますので生命の危機を招いてしまいます。だから日々新しい刺激を「知ってる情報袋」に仕舞い込む作業を本能的に行っているのです。

見知った顔の多いパーティは安心しますよね。知り合いのいない集まりは緊張します。でも積極的に話かけ、その人を知ろうとする…

緊張感をプラスに捉えれば、新しく現れたモノに対しての好奇心にも繋がります。知らないから知ろうとする、みたいな感じでしょうか。

食品の世界に目を転じますと…
いつものコーラに「緑茶」風味のものが発売されたときの興味。McDonaldsの新メニューを試したい欲求。10000円ラーメンへの“どないやねん?”感情。

好奇心があるからこそ新商品が売れるのです。旨い、まずいに関わらず。
なぜなら初めて体験する味だから。で、まずかったらそれを「知ってる(負の)情報袋」に入れるので再チャレンジは無し。メーカーは痛手を体験し、反省し、再び新しい商品開発に邁進する。上手く行ったらその経験を次に開発に反映する。

デザインに関わっている方なら貴方の行動、とりわけ購買心理に目を向けてみましょう。何事も経験で判断している自分に気付くはずです。「ここのメーカーのモノは美味しかった(だからこの新商品も美味しいだろう)」とか「この手のコラボものは中途半端だったから今回は辞めとこう」とか。

マーケティングリサーチとか言って他人の意見ばかり気にするよりも、まず自分ならどうするか。そこが貴方があなたであるべき理由だと思うのです。

もうひとつオマケに言えば、「貴方が知っている以上のものは表現できない」。

クリエーターの投資すべきは「素晴らしき体験に」と言えるでしょう。

 

■ 経験=飛べない理由

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ここにお皿があります。一度も使っていない新品です。フチに3カ所凹みがあります。さて、何に使うものでしょうか?
「◯◯にきまってるじゃん!」とという声が聞こえて来ます。貴方の経験からそう判断されましたね。

ではこれにお菓子を入れてみましょう。どうですか?
なにか胸騒ぎしませんでしたか。ドキッとしたと同時に拒否反応を起しませんでしたか。

過去に灰皿を使った事のある方は嫌悪感を抱かれたことでしょう。それは貴方の経験・体験から導き出された感覚です。

逆にこのシチュエーションを面白がる人達もいます。
喫煙率が下がっている昨今、若い世代は灰皿に触れる機会が少ない。すなわち経験値が低いので抵抗も低い。だから菓子皿として見るに抵抗が少ない。

実際に一度も使っていない皿ですので清潔ですし何を入れようが個人の勝手ですので全く構わないのが当たり前なのですが…人の先入観=経験値っておもしろいですね。

ブラジルからの留学生を受け入れ、お世話をしたことがあります。

なにせ陽気な彼女たち、夜な夜な宴会です。生ランバダです(すみません…バブル期以降の方はご存じないかも)。
夜店の屋台できんぎょすくい体験。結構な数をゲットして帰ったのですが、金魚鉢という粋なものがありません。とりあえず植木鉢の受け皿に入れときなさいと渡しておきました。

数日後、夕食会に招かれました。 よく遊び、よく食べる! (勉強はどうした?)。
サラダ、パスタの量が半端ではありません。

で、

その器を見ると…

植木鉢の受け皿。

え~!と思いつつも「金魚はどしたん?」と尋ねます。
「キンギョ、シンジャッタ…デモキレイニアラッタカラ、ダイジョブ!」

彼女達は「植木鉢の受け皿」を使った事が無いので「食器」との壁をいとも簡単に乗り越えてしまいました。

世間のしがらみの中で仕事をしています。ときどきこんな「飛び道具」が欲しくなります。

 

■ 目新しいのが善なのか

デザインや企画セミナーに出掛けて、講師の先生がよく言っている言葉に「今を変えなさい」というフレーズ。
確かに何も為さなかった結果として現状があるのなら変えなくてはいけません。

しかし、クライアントたる企業や店舗の持つ「歴史」は不可侵な財産です。何ものにも変え難い。
それを否定してトータルで変えて行きましょう!なんてあまりも乱暴な話です。

私のスタンスは、残すべきものと変えなくてはいけないものの「仕分け人」。

中でも注視するのは、その変え方度合い。

上記でひつこく申しましたが、人は自分の経験・体験値で受け入れるか拒否するか判断しています。
どの程度新しかったら受け入れられるのか。既視感という安心の上に少しの「新しさ」という刺激を加えるという『新旧の塩梅』をコントロールするスキルがデザイナーに求められています。

バブルの頃なら“ビールのような牛乳カートンデザイン”が受け入れられた事でしょう。現にそんな無茶苦茶さが受けた時代でもありました。それが許された余裕とお金があった時代の話です。

今はどうでしょう。

減ったお給料でやり繰りしなければならない時代です。買物に失敗は許されません。
だから「成功体験」のある定番商品が売れます。または失敗しても笑って許せる安価なものに流れます。

デザイナー、プロデューサーは時代背景を読まなくてはなりません。
それにはまず「現場」へ。
スーパーマーケット、コンビニエンスストア、アウトレットモールでお客さん体験をしてみましょう。
自分がカゴへ入れた商品は? 今度はそれを客観的に見てみましょう。

人の意見を聞く事は良いことですが、自分の経験値をニュートラル軸としてどちらに振れればいいのか、また振れ幅チェックをお忘れなく。