月別アーカイブ: 2009年7月

デザイナーの正しい使い方

■ デザインコンペの是否

数社のプロダクションやデザイン事務所から募ったアイデアの中から一点を選ぶというデザインコンペ。
私も時折好むと好まざるに関わらずその渦中に巻き込まれたりします。

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選考審査役としての参加も多々あります。
一社あたり30点以上というボリュームで攻めてくるところもありますが、その仕上がりたるや腰が砕けそうになるもの多数。「下手な鉄砲数打ちゃ当る」状態です。
単なる数合わせにしか思えません。
対象商品やクライアントの方向性を熟考した結果としてのデザイン提案なら松竹梅の3案。多くて5案(色展開は数のうちに入りません)程度でしょう。
これがプロの仕事っていうもんです。ただ掻き集めてきました、この中からお好きな物を選んでください、というのは大人のやる事ではありません。

真剣さに欠けた仕事は、それを出すデザイナーの品性を問われますし何よりクライアントに失礼だと思うのです。

しかし、中には「数」を要求してくるクライアントもいる訳で。
つまり上(上司)に説明するのに「これだけ検討しました」という実績が必要で、それが数(アイデアの束)なんだと。
皆のアイデアの総意ですから自分を消すことが出来ます。責任の所在を有耶無耶にすることが出来ます。が、総意ではブレイクスルーはできないことを申し上げておきましょう。

ちょっと横道に逸れますが、企画会議の場で頻りに「理論」を語る人、いますよね。ほら、あなたの上司にも今時“AIDCA”なんていう単語を得々として語る人。
世の中は不条理なものです。必要とされるのは机上の「知識」では無くて現場で起きている事象に柔軟に対応出来る「知恵」なのです。

デザインのプロはそのような理論は周知の上で知恵を絞っています。敢えて理屈を語らない。
もう一つついでに言っておきますとプロフェッショナルは「言い訳」をしません。

本題に戻りましょう。

そのようなデザインコンペの弊害は何なのか。

ひとつには自社のブランディング軸が無い為に引き起こされる積み木崩し的資本投入。
例えば「前回はこんな感じが良かった。今回の案の中ではこっちが良いな…」というような場当たり的イメージ決定のために知的財産の積み重ねが為されない。毎回ゼロから。
だからいつまで経ってもブランドイメージが確立しない。すなはちお金の無駄遣い。

経営は投資を乗算で考えなければなりません。

弊害その2. デザイナーの疲弊。
多くの場合、コンペフィーは雀の涙程度。ひどいところになると勝者のみに通常のギャラが支払われるというものです。因ってデザイナーはハイリスク・ローリターン。
デザインの世界の50%は「やってられっか!」という悲鳴で出来ています。

そして最大の弊害は「質の低下」。こんな処遇では「数打ちゃ当る」程度のクオリティーしか集まらないのも頷けます。
結局損するのはクライアント側なんですが。

 

ではどのようにしたら質の良いデザインが集まるのでしょうか。

言っておきますが私はコンペを全否定しているのではありません。
今のところ勝率も高くそれなりに商売になっています。しかしこんなに空しい気持ちにさせられる仕事も他にありません。
デザインの目的がユーザーの為というよりコンペに勝つという事になってしまいがちだからでしうか。

トップマネジメントの顔が見えないからでしょうか。

良いコンペとは、いきなり末梢の表現を募るのでは無く、まず「人物(人柄)コンペ」を行うべだと考えるのです(欧米では当然の如く行われている手法ですが)。
クライアント側はデザイナー各人のヒアリングを行います。その人(プロダクション)がどのような考えを持っているのかを問うわけです。デザイン哲学とか…もう生き様そのもののコンペですね。
その上で「この人だったら任せても良い」という候補を絞り込んだ上で表現の審査に移る、といった手順です。
企業側と同じベクトルの志を持ったデザイナーに継続的に任せておれば自ずとヴィジュアルアイデンティティが確立されてきます。
それこそが知的財産。何にも代え難い積み重ねの報酬です。

 

■ 信頼

人格を認められたデザイナーは最高のパフォーマンスを発揮します。

人間誰だって褒められれば嬉しい、信頼されればそれに応えようとするものです。
デザイナーという人種は結構職人気質で、おだてられれば調子に乗って期待以上の事をしようとする愛すべきバカが多いのです。それを逆手に取って頂いて構いません。
バカとハサミは使いよう…上手く使いこなすのも企業側のスキルだと思います。

私が駆け出しの頃からお付き合いして頂いているメーカーがあります。先代の社長の頃からですので25年間にもなるでしょうか。パッケージデザインを一貫して任せて頂いており私の四半世紀の歩みそのものです。
全国規模のメーカーになった今、振り返ってみると、無意識のうちに知的財産が残っているのです。
大げさなV.Iを画策したつもりはありませんが長い年月一点ずつのデザインの積み重ねが成し遂げた双方の財産です。

長くこの仕事を続けていると「飽きられる」事もあります。
そうならないためにも常に新鮮なアイデアを提供しなくてはならないのですが、やはり時として隣の芝生が気になる事もまた事実。
そうやって離れて行った2,3の企業がこのところ再び依頼しに来てくださいました。
以前から弊社は「駆け込み寺」的な存在ではありましたが、この不況時に数社重なるとは。しかし何故? 話を伺ってみると「いや~、いろんなところでやってみたんだがね…」とか「確実にヒットを打ちたい」とか。

苦境の際に側に居てくれるのが真の友、という言葉を聞いた事があります。

信頼されるということは何と嬉しい事でしょう。信頼こそが良い仕事の原動力だと強く感じた不況下の話です。

 

■ つまりは人

ひとつの企業と長く関わり、企業内に知的財産を築き上げるのはデザイナーとして大きな達成感があります。

有名な100円ショップのデザイン室顧問を兼任しています。
当初100円ショップなんて「安かろう悪かろう」の見本市みたいなもんだと思っていましたが、ここ数年のレベルアップには驚かされます。こんなものが100円!という感動すら覚えます。年商3300億超、国内2500店舗、海外470店舗の企業のトップが次に見据えたものは「デザイン」でした。

通常、多くの企業はデザイン業務を外注しています。
私達デザイン事務所を経営している者にとっては有り難いのですが、損得抜きで考えれば勿体ない話でして、月1000点にも及ぶ新商品のデザインフィーはかなりの出費です。
デザインを内製化すればコスト削減にもなりますし何より知的文化が自社に根付き財産として蓄積されるのです。

このミッションにおける私の仕事はデザインを作るのでは無く、人を育てる事。
例えが悪いかも知れませんが、お腹を空かしている人に魚を与えるのではなく、釣り竿を渡す事。パンを与える代わりに小麦の育て方を教える…そんな感じです。
究極のサスティナブルデザインとも言えるでしょうか。

人員削減、賃金カット…そんな話ばかりの現状下でもデキてる企業は人を財として大切に扱っているように思います。

いずれ私も朽ち果てる時が来ます。この世に何が残せたかと自問するとき、「人財」と答える事が出来たなら最高の幸せです。